二・二六事件は「昭和の歴史」を決定的に変えた…軍部の暴走が始まった理由

岡田後継首班問題は陸軍の介入によって混乱を極めた。紛糾の末に大命は外務官僚の広田弘毅に下ったが、陸軍（寺内寿一陸相、正毅の長子）は組閣に公然と介入し、当初予定されていた吉田茂の入閣は阻止され、閣僚リストの半分は差し替えられた。

広田内閣と言えば、軍部大臣現役武官制の復活（1936年5月）が有名である。

それは一般的には、「軍部の台頭」の制度的表現として解釈されがちである。だが、広田の意図は、現役武官制廃止（1913年）に伴って制度化され、田中義一陸相時代に権威付けられた陸軍三長官会議を廃止して、強化された陸相権限によって粛軍を一気に推進するというものであり、さらに「大命降下者」（首相候補）による陸相選任権の掌握までもが視野に入れられていた。

広田弘毅首相［国会図書館ウェブサイトより］

現役武官制が廃止されていても、予備役・後備役から陸相が選ばれることはなかった。制度をその実態に合わせることに何の不都合があろうか。ましてや、それが粛軍に資するにおいてをや。政党勢力が現役武官制の復活を認めたのはそうした理由に基づいていた（加藤陽子『模索する一九三〇年代』209〜226頁）。

一方、寺内陸相ら陸軍側の思惑は、三長官会議の廃止による粛軍の貫徹と皇道派系将官の復活阻止にあり、大命降下者による陸相の指名などはもとより論外であった。制度改革の趣旨は玉虫色であり、各政治勢力は自らに都合のよい解釈を採っていた。

いずれにせよ、広田内閣の成立過程に明らかなように、現役武官制とは関係なく陸軍は大きな政治力を振るっていたのである（筒井清忠『昭和十年代の陸軍と政治』第二章）。